稲越功一の写真紀行

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  • 紹興にてPART1
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撮影後記 第6回:気品ある味。
紹興市郊外に紹興貴酒の工場がある。周りは田園風景を思わせるような静けさで、透明な空気と時間が止まっているような美しさだった。工場周辺には何千というカメが並び少し紹興貴酒の匂いが漂っていた。車でホテルから30分ほど行った所に工場はあり朝早くから工場の人たちがカメを運んでいた。ここで働く人たちは素朴だがいかにも紹興貴酒が好きで、手造りでつくっているという自負のよう
なものがこちらに伝わってきた。制服、長靴にも作業で染み込んだ長い年季が見え、それらを見ただけでも熟成した貴酒の確かな年輪がそこに刻み込まれていた。ひとつひとつのカメにも長い年月の顔があり、風格さえ感じた。ここの黄洪才博士は十年の年月を得た貴酒を私たちにすすめてくれた。プーンと独特の香りがしてそれをグーッと一気に飲みほした。
時間が経つと体が少しずつ温かくなってきた。このおいしい紹興貴酒は一時発酵後、わざわざ小ぶりのカメに移し替え寒い外気に触れさせるのだ。こうした貴酒への心づかいが本格的なおいしさにもなっている。このおいしさは地元の新米を使用して何十年と造り続けてきた方法で静かに時を待つのだ。二
次発酵にも100日以上の時間を費やし、市場の紹興酒が40?60日というから、いかに時間をかけているかがわかる。おいしい貴酒は多くの人たちの温かい愛情と長い年月を経て味のあるなんとも言えない深くて優しい格別な貴酒になっていく。
稲越功一
プロフィール
写真家 稲越功一 Koichi Inakoshi 1980年講談社出版文化賞受賞。国内、海外で多くの作品集を出版、展覧会を開催する。『男の肖像』『Ailleurs』『三大テノール日本公式写真集』『アジア視線』など作品集多数。2005年、松尾芭蕉生誕360周年記念企画として、『芭蕉の言葉』(佐佐木幸綱共著、淡交社刊)を出版、写真展『芭蕉の風景』(銀座・和光ホールにて)を開催。現在、NHK『新シルクロード』取材に参加中。
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