稲越功一の写真紀行

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  • 上海にて
  • 上海、杭州にて
  • 紹興にてPART1
  • 紹興にてPART2
  • 紹興にてPART3
撮影後記 第3回:西湖の夕陽。
西湖は中国でも最も美しい湖といわれている。ある日の夕方、この湖が見える眺めのいいホテルの部屋から、夕陽を見ながら紹興貴酒のロックを飲んでいた。お酒はやはりそのシチュエーションによって味具合も大いに変わる。この日は夢のワンシーンを見ているような光景でもあり、気づいてみると時刻は九時近くになっていた。
すっかり周りは暗くなっていたが、湖の真中にある夕照山の雷峰塔がぽっかり浮いているように見えた。墨絵でも画きたくなる心境でもあった。あの松尾芭蕉が“象潟(きさかた)や雨に西施(せいし)がねぶの花”と詠んでいるように、この湖は見る時間によっても湖の風情がまったく違って見える。
私たちは翌日の早朝、西側の南高峰から北高峰を撮ったが、霧がかかりまさに山水画の世界が撮れた。この西湖の風景は水墨山水画が生まれた北宗代にその画題として“西湖十景”に画かれている。中世から近世にかけて日本人にとって西湖は憧れの場所でもあったようだ。いずれにせよ杭州といえば西湖が代名詞のようだ。
東京に帰っても西湖の美しい光景が時々眼に浮かび、ついつい西湖の夕陽と一緒に沈むような気分にさせられ、オフィスで紹興貴酒を小さな透明のグラスに注ぎストレートで飲んでいる。
稲越功一
プロフィール
写真家 稲越功一 Koichi Inakoshi 1980年講談社出版文化賞受賞。国内、海外で多くの作品集を出版、展覧会を開催する。『男の肖像』『Ailleurs』『三大テノール日本公式写真集』『アジア視線』など作品集多数。2005年、松尾芭蕉生誕360周年記念企画として、『芭蕉の言葉』(佐佐木幸綱共著、淡交社刊)を出版、写真展『芭蕉の風景』(銀座・和光ホールにて)を開催。現在、NHK『新シルクロード』取材に参加中。
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